あなたが視覚化したデータは本当に理解されているか
Kellogg Insight, DEC 9, 2021 掲載

“Previously published in Kellogg Insight. Reprinted with permission of the Kellogg School of Management.”

データ視覚化(データビジュアライゼーション)の多くの専門家が、グラフを整理し、特定の情報に焦点を当てることを提唱しています。そのような技法は、実際に聴衆の役に立つのでしょうか。

私たちは、ビジネスシーンにおいて特定の種類のグラフをよく目にします。それぞれの棒が異なる色で塗られ、たくさんのラベルとテキストが貼られたグラフです。そして、発表者はしばしば、データそのものに語らせようとします。「ほら、ご覧のとおり」という具合です。

しかし、多くのデータビジュアライゼーションの専門家は、別のアプローチを提唱しています。1つは、聴衆が情報を処理しやすくなるようにグラフをすっきり見せるなどの工夫をする、「整理(decluttering)」と呼ばれる技法です。もうひとつは「フォーカス(focus)」と呼ばれる技法で、1つの棒を赤くして他はすべてグレーにするなど、発表者が聴衆に注目してほしい情報やトレンドを強調するものです。

ノースウェスタン大学の心理学の教授で、ケロッグ経営大学院で協力教員としてマーケティングを担当しているスティーブン・フランコネリとその同僚たちは、これらの技法に本当に効果があるのか疑問を抱きました。整理やフォーカスは、発表者がメッセージを伝えるのに役立ったのでしょうか。

大学生を対象とした研究では、2つの技法を組み合わせて使うことで、人々が図表の要点をより明確に把握できるようになることがわかりました。しかし、フォーカスを施さずに整理だけを行った場合では、ビジュアライゼーションを少し専門的に見せるという以上の効果はありませんでした。聴衆は、乱雑なグラフを見たときと同じように、要点を見逃す可能性があったのです。

「予想された認知的な利点は見つかりませんでした」と、フランコネリは述べます。

このパターンそのものが「聴衆に訴えかける」のだから、フォーカスの技法は必要ないと考える発表者もいるかもしれません。しかし、専門家にとっては明らかなことでも、聴衆にとってはそうではないかもしれないと、フランコネリは言います。

発表者は「専門家の呪縛」にかかっていると、フランコネリは言います。「彼らはグラフの中で何が重要なのかを自分自身では見抜けるので、聴衆もそうだと考えてしまいます。しかし、それは典型的な間違いです」

この研究は、データそのものに語らせるだけでなく、複数の技法を使って聴衆を望ましい結論に導くことの重要性を示唆しています。

根本的欠陥

フランコネリによると、グラフは人々の視覚に訴えることで「非常に強力な効果を発揮」できるため、ビジネス・プレゼンテーションでは必ずと言ってよいほど使用されます。

しかし、これらのグラフの多くは、メッセージを効果的に伝えることができていません。聴衆を混乱させたり、重要な結論がわからないままということが多いのです。「ビジネスシーンで使われるデータビジュアライゼーションのほとんどは、デザインに根本的な欠陥があります」と、フランコネリは述べます。

データストーリーテリング(データから得られることを、ストーリーを組み立てながらわかりやすく伝える方法)に関する多くの書籍で提唱されているのが整理技法であり、これには余計な視覚的要素を取り除くことが含まれます。たとえば、境界線、グリッド線、目盛り、データ値の不要なラベルを削除することが推奨されています。また、さまざまな色を使うのではなく、色数を最小限に抑えたり、すべてをグレーや黒にしたりすべきだと言われています。

フォーカス技法では、データの重要なトレンドを説明する明確な見出しやテキストを追加するように指示されます。たとえば、「XはYの2倍の速さで上昇している」とか、「AとBが最も重要な2つの要因である」といった内容です。そして、関連する棒や線をチャートの他の部分と異なる色にすることで、そのパターンを目立たせるのです。

ノースウェスタン大学(当時)のキラン・アジャニ、エルシー・リー、シンディ・シオン、ウィリアム・ケンパー、そしてストーリーテリング・ウィズ・データ社のCEOであるコール・ナフリックらで構成されるフランコネリのチームは、これらの技法の有効性を定量化しようと考えました。

研究者たちは、整理技法が専門家が主張するような効果をもたらすかどうかに、特に疑問を抱いていました。これは、より洗練されたデザインにすることで「情報の洪水にさらされることがなくなり、聴衆がデータに集中できるようになる」という仮説に基づいていたと、フランコネリは言います。しかし、フランコネリのチームは、聴衆がグリッドラインやラベルをフィルターにかけることはそれほど難しくないのではないかと推測しました。

「聴衆はこれまでの経験でそうした雑多なものを見慣れており、脳はそれらを排除するように調整することができるのではないか」と、彼は述べます。

乱雑さを解消する

研究者たちはこの技法をテストするために、さまざまな話題に関するデータを表示する6つのグラフを作成しました。たとえば、ある棒グラフは新車のデザインに関してドライバーの関心が高い項目を示し、ある折れ線グラフは人々のニュースの情報源が時とともにどのように変化してきたかを示していました。

チームはそれぞれのグラフについて、3つのバージョンを作成しました。1つ目は、余分なグラフィック要素を多用した雑然としたグラフです。2つ目は、全体がグレースケールで統一され、格段に洗練され整理されたグラフです。そして3つ目は、重要なトレンドを別の色で示し、見出しやキャプションで説明を加えた、整理されフォーカスされたグラフです(チームは、乱雑なままフォーカスされたグラフを用意しませんでしたが、これは、一般的にフォーカス技法では、関連するトレンドを目立たせるためにまず整理を行う必要があるためです)。

たとえば、情報源の変化に関する折れ線グラフでは、「インターネットを主な情報源として挙げる割合がますます増加」という見出しを付け、「インターネット」という言葉を明るい青色で表示しました。グラフの「インターネット」の線とラベルも明るいブルーにし、他の情報源(テレビ、ラジオ、新聞、友人)はグレーのままにしました。

研究者たちはその後、ノースウェスタン大学の学生や地域住民24名にグラフを見せました。参加者はそれぞれ、3つのデータストーリーを2つのバージョンで見せられました。それぞれのグラフを10秒間見た後、手書きでグラフを再現するよう求められました。また、そのグラフの内容と主な結論も書き留めるように言われました。最後に、参加者は各グラフの3つのバージョンをすべて見せられ、美しさ、明確さ、専門性、発表者がどの程度信頼できそうかについて評価するよう求められました。

記憶力の向上

チームが乱雑なグラフと整理されたグラフへの反応を比較したところ、整理されたバージョンの方がよりプロフェッショナルな印象を与えることがわかりました。しかし、重要なこととして、グラフを再現したりその結論を正しく説明したりすることに関しては、整理されたグラフを見た参加者の方が有意によい結果を出すということはありませんでした。

一方、フォーカス技法を使用すると、理解しやすさに大きな効果がありました。整理技法のみを使ったグラフを見た人に比べ、整理とフォーカスの両技法を使ったグラフを見た人は、主な結論を自分が書いた説明の中に盛り込む可能性が約2.5倍高かったのです。また、彼らは関連するトレンドをより的確に描き出すことができました。

「人々は、強調されたパターンをしっかりと記憶していたのです」と、フランコネリは述べます。

また、美しさやわかりやすさの点でも、フォーカスしたグラフの方が整理しただけのグラフよりも高く評価されました。しかし、一部にはデザインに不満を持つ参加者もいました。コメント欄には、フォーカス技法を使ったグラフは、発表者が何か誘導しようとしているように見えるので、信頼できないという不満がいくつか述べられていました。

フランコネリは、フォーカス技法が強引な印象を与える可能性があることを発表者は認識すべきではあるが、認知上の利点はこの潜在的なマイナス面を上回ると考えています。「正しいパターンへと導かれることに感謝する人の方が、圧倒的に多いでしょう」と、彼は述べます。

整理はプロフェッショナルな印象を与えると考えられるので、この技法を使う価値は大いにあり、何よりもフォーカス技法への道筋をつけるのに役立つと、フランコネリは言います。トレンドに注目させるには、色数を減らして、重要な線や棒を目立たせることが必要です。発表者は色数を最大でも2色、理想的には1色に抑えるべきです。

ストーリーテリングのスキル

聴衆は、「ニューヨーク・タイムズ」紙の「The Upshot(要点)」や、FiveThirtyEight.comその他のメディアサイトに見られるような、重要な要素に注意を誘導するクリーンなビジュアルに慣れているということを、この研究は示唆しています。ビジネスでの発表者もそれに倣うべきです。

「エクセルから直接貼り付けるのは、もう通用しません」と、フランコネリは述べます。

発表者の中には、整理のようなより単純な作業なら、所属する組織のグラフィックデザイナーに手伝ってもらえる人もいるかもしれません。しかし、すべての作業を他者に任せられるわけではありません。自分が使うデータを最もよく知っているのは、自分自身です。デザイナーが面談して「発表者の頭脳をダウンロード」でもしない限り、どのパターンを強調すべきか、どのように注釈を付けるべきかはわからないと、フランコネリは言います。 「通常、この作業は他人に任せることはできません。聴衆にデータを示す者は誰であれ、データストーリーテリングの基本を知っておく必要があります」と、彼は述べます。


BASED ON THE RESEARCH OF

Kiran Ajani

Elsie Lee

Cindy Xiong

Cole Nussbaumer Knaflic

William Kemper

Steven Franconeri

原文はこちら

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA