従業員をオフィス勤務に復帰させるには、4つのあつれきへの対処が必要
Kellogg Insight, OCT1, 2022 掲載

“Previously published in Kellogg Insight. Reprinted with permission of the Kellogg School of Management.”

イノベーションの専門家が、抵抗に正面から対処する方法を説明します。

秋に従業員をオフィス勤務へと復帰させる計画(今度こそ本当に!)を実行しようとしているリーダーたちは、不思議な現実に直面します。かつて普通だったことが、今は奇異に感じるのです。多くの従業員が、オフィスに戻りたくないと思っているのです

ケロッグ経営大学院の臨床学教授(戦略担当)で、ベストセラーになったThe Human Element: Overcoming the Resistance That Awaits New Ideasヒューマン・エレメント:新しいアイデアを待ち受ける抵抗を克服するために)の共著者でもあるデイビッド・ションタールは、「雇用主は従業員が捨て去った昔のやり方に固執している」と指摘します。

ションタールは、変化に抵抗するのは人間の本性であると言います。しかし、リーダーたちが新しいアイデアを実行に移したり、あるいはオフィス勤務への復帰義務のような変化を導入したりするとき、彼らは今後の仕事に関する自分のビジョンに主眼を置いたり、核心部分の詳細を練り上げることに集中するケースがあまりにも多いのです。そこでは、惰性や抵抗に打ち勝つというより大きな課題が見失われがちです。

「誰かを変わるように説得しようとするとき、誰かに何か新しいことをさせようとするとき、抵抗勢力は常に存在します。

ションタールとその同僚のローラン・ノードグレン[A1] は、何らかの変化や新しいアイデアの定着を阻むことのある4つの「あつれき」を特定しました。従業員のオフィス勤務時間を増やしたいリーダーは、これらの問題のいくつかに正面から取り組めば、より大きな成果を上げることができるとションタールは述べます。

人間は変化を嫌う、あるいは何をすべきかを指示されることを嫌うものだということを認識する

私たちの多くは「慣れ親しんだものを手放したくないという圧倒的な欲求を持っています」と、ションタールは説明します。したがって、リーダーが変化を引き起こそうとするときに直面する主なあつれきの1つが、「惰性」です。

リモートワークやハイブリッドワークを2年以上続けた後では、従業員たちはもはやオフィス勤務を当たり前とは思っていません。「かつて普通であったものが、短期間のうちに異質なものとなったのです」

同時に、パンデミックの期間中、雇用主と従業員の関係も変化しました。その1つとして、多くの従業員が、同僚との対面での交流よりも、自分たちが獲得した自律性を重視するようになったことが挙げられます。雇用市場の過熱感も、従業員を後押ししています。

「現時点では、募集している職の数は、それを埋める人材の数よりも多いのです」と、ションタールは述べます。「このパワーバランスの変化は、現在の市場の不安定さを考えると脆弱なものかもしれませんが、経済状況が従業員にいっそうの大胆さを与えたまさにそのとき、彼らの優先事項が変化したのです」

このような力関係の変化は、「誘導抵抗」という別のあつれきを増幅させています。誘導抵抗とは、他人により変化させられたり、何をすべきかを指示されたりすることを嫌うという、人間の自然な傾向です。

「従業員は、特定の時間帯にオフィスに戻ることを求められていると感じると、そのような義務は、在宅勤務が最も普及していた時期に獲得した自律性を真っ向から否定するものだと考えるかもしれません」と、ションタールは述べます。

アイデアは早い段階から頻繁に知らせる

しかし、ある程度の惰性や誘導抵抗は避けられないかもしれませんが、リーダーには移行を容易にするためにできることがあるとションタールは言います。

人間は驚かされるような一大発表にはうまく対応できないものだと、彼は指摘します。反対に、時間をかけてそのアイデアを紹介されると、大きな変化を受け入れやすくなります。そこで彼は、オフィス勤務への復帰計画を早い段階から頻繁に社内コミュニケーションに盛り込むことを、リーダーたちに勧めています。

「従業員に何かを初めて伝えたときに、それにコミットすることを求めないように」と、彼は述べます。「頻繁に耳にすればするほど、いざ決断しようとするときに従業員はよりオープンな気持ちになっています。そのアイデアに慣れるための時間があったからです。このようにして、馴染みのない新しいアイデアが従業員にとってより身近なものになる時間を作るのです」

「設計プロセスに人々を招き入れることの危険性は、提供した意見のすべてが採用されるかのように感じさせてしまうことです」 

―デイビッド・ションタール

この点に関してションタールは、リーダーが犯しがちな失敗とは、計画を完全に策定してから、変更が行われることを従業員に知らせることだと言います。上層部が何カ月もかけて慎重に検討したオプトインおよびオプトアウトの方針を備えた、最もよく考えられた復帰計画であっても、予告なしに発表されたならば、従業員たちは不意打ちを食らった気分になります。

代わりに、彼はコンサルタント時代に学んだ教訓を共有します。すなわち、定期的な報告により、プロセスを通じて従業員がリーダーの考えを垣間見られるようにすることです。

「そうすれば、最終的なアイデアや戦略、申し出が伝えられたときに、除幕式で初めて実態が公開されるというようなことにはなりません」と、ションタールは言います。「そのようなジャジャーンという発表の仕方は、裏目に出ることが多いのです。

その代わり、時間をかけてゆっくりとアイデアを浸透させていけば、最後に見える変化は、前回見たものを少し変えただけとなります。こうして、大がかりなアイデアを一度にすべて提供するのではなく、コースの中で少しずつ提供したことで、従業員にとってははるかに消化しやすくなるのです」

これは、もう1つの重要なあつれきである「労力」への対処にもつながります。将来起こるであろうことを予め知ることができれば、従業員は自分の職務がどのように変わるかを想像しやすくなるとともに、転居や通勤、介護に関する重要な決断の計画も容易になります。

制約付きの共同設計

ションタールまたは、オフィス勤務への復帰戦略を策定するプロセスに、ある程度はチームを参加させることを勧めています。

たとえば、新しい方針でできることとできないことのリストを配布する代わりに、オフィス勤務で経験した利点を挙げてもらうのです。このアプローチにより、決定済みの解決策を従業員に押し付けるのではなく、オフィスワークのいくつかのよい面について会話の中で再び話題にできるようになります。

ただし、意見を集める際には、過剰な約束をしないように注意しましょう。

「設計プロセスに人々を招き入れることの危険性は、提供した意見のすべてが採用されるかのように感じさせてしまうことです」と、ションタールは警告します。「フィードバックがなぜ、どのようにして採用されるのかを明確にすることは、非常に重要なことです」

オフィス勤務への復帰計画を共同設計するということは、必ずしも社内全員から意見を求めることを意味しません。結局のところ、企業は民主主義の組織ではないのです。

「オフィス勤務への復帰計画に5万人の声を集めても、何の役にも立ちません。それはノイズに過ぎません」と、ションタールは述べます。

その代わりに彼は、さまざまな立場の従業員の代表からなる設計チームを作ることを推奨します。

そして、プロセスを通じ、常に制約について説明することが重要です。オフィス勤務への復帰計画は白紙の状態から設計されるわけではないことを、従業員は理解する必要があります。制約には、事業目標やKPI、あるいは企業文化に関する対人関係の目標が含まれるかもしれません。

ションタールは、設計原則についてショートリストを作成することを勧めています(所定の時間枠内で事業目標を達成することなど)。オフィス勤務への復帰計画の設計チームがミーティングを行う際には、次のような問いを立てるとよいでしょう。「会社の目標を確実に達成できるようにしながら、従業員が重視する柔軟性や自律性を維持できるような計画を立てるにはどうしたらよいか」

ションタールは、リーダーたちが従業員に意見を求めるときは、彼らの提案の背景にある動機に耳を傾けるようにと指導しています。たとえば、従業員が週2日のオフィス勤務と週3日の自宅勤務に分けることを提案したら、「なぜそうすることが重要なのか」と尋ねてみてください。もっと趣味に時間を費やしたい、介護のためにもっと柔軟なスケジュールにしたいなど従業員が望んでいることや、従業員が気づいた、オフィスの気を散らす要因について知っておくのはよいことであり、戦略設計にとっても重要なことです。

「人々が何を求めているかを特定することよりも、なぜそれを求めているかを理解することが重要であり、そこにこそ真のイノベーションの機会があると思います」と、ションタールは述べます。

変革を実験として組み立てる

最後にションタールは、リーダーがオフィス勤務への復帰計画を「実験」として組み立てることを推奨します。

「従業員は馴染みのないアイデアに対して無期限にコミットしていると感じていないときの方が、積極的に賛成する傾向があります」と、彼は説明します。

理想的なのは、実験が一定期間にわたり評価されることです。たとえば、「オフィスにいる日を選べるようにする」、「特定のチームには在宅のまま勤務することを許可する」という実験であれば、成功の基準についても合意しておかなければなりません。6カ月後にうまく機能していたら継続、機能していなければやり直し、という具合です。

そして、組織にとってこの実験する能力が、将来的に大きな資産になると指摘します。結局のところ、ウイルスがすぐに消えてなくなることはありません。また、地政学的問題や気候変動による混乱がかつてないほど増大し、多くの産業を直撃しています。景気後退の懸念も高まっており、雇用主と従業員の関係がまた逆転する可能性もあります。

「この世界情勢が続けば、ほとんどすべてにおいて半年ごとに『新しいアイデア』を導入することになり、雇用主はあつれきの原因を頻繁に考え、評価しなければならないでしょう」と、ションタールは述べます。「リーダーは新しいアイデアについて考えるだけではなく、常に変化していく状況で従業員に新しいアイデアをどのように導入するかということに焦点を移す必要があるのです」


 [A1]https://books.google.co.jp/books?id=DvR8EAAAQBAJ&pg=PA29&lpg=PA29&dq=Loran+Nordgren%E3%80%80%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3&source=bl&ots=AegecbIubv&sig=ACfU3U1zlZMJcvmx4H-rembW27uq5xmK_Q&hl=ja&sa=X&ved=2ahUKEwiKoLm8r7P9AhWR0GEKHfoIAVoQ6AF6BAgdEAM#v=onepage&q=Loran%20Nordgren%E3%80%80%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%83%B3&f=false


FEATURED FACULTY

David Schonthal
Clinical Professor of Strategy; Director of Entrepreneurship Programs at Kellogg; Faculty Director of the Zell Fellows Program; Director of the Levy Institute for Entrepreneurial Practice

ABOUT THE WRITER

Susan Margolin is a writer based in Boston.

原文はこちら

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