アメリカで働くということ

グローバルに活躍できる人間になるためには、ただビジネススクールで学んでいるだけでは不十分である。ビジネススクールで学んだ、ビジネスについての知識、問題解決力、チームスキル、リーダーシップ能力を、実際にインターナショナルな環境で、仕事という場において使う必要がある。そういう意味では、夏のインターンシップは自分のグローバルスキルを試す非常にいい機会である。

そもそもグローバルスキルは色々な要素から成っている。多国籍なチームのマネジメント能力、インターナショナルビジネスに関する一般常識・知識、外国文化についての理解・素養など。ただ、やはり一番の前提条件となるのは、英語環境で一人前に仕事ができるかということである。言葉の壁をクリアせずして、グローバルで働ける人間だと語ることはできない。子供の頃に海外で暮らした経験が全くなく、常に英語に苦手意識を持ってきた自分にとって、これは無謀ともいう課題設定なのだが、MBAに来た以上、後戻りすることはできない。自分は敢えて、最もつらい場所に自分の身を置くことで、自分の英語環境で働けるスキルを試すことにした。

インターンシップには色々な種類がある。英語環境で働けるスキルを試すという観点で考えると、

1) 働く場所 (日本 or 非英語圏 or 英語圏)

2)  一緒に働く人 (日本人 or 日本人&外国人 or 外国人のみ)

3) 仕事の内容 (日本ドメドメの案件、日本企業の外国絡みの案件、海外企業の日本絡みの案件、海外企業の海外ドメドメ案件)

の三つの点で、難易度が決まってくる。当然、英語圏でネイティブスピーカーのみの環境で、完璧な海外案件を扱うことが最も過酷である。そして自分は無謀にもそれにチャレンジすることにした。シカゴのパブリックセクター向けにコンサルティングを行うNPOでのインターンである。案件はパブリックセクター絡みなので、全てシカゴ内のトピック、社員はもちろん全員アメリカ人。しかも、アメリカのMBA、Public policy等のトップスクール出身者や大手コンサルティングファーム出身の人間のみである。CEOは元マッキンゼーのジュニアパートナーだ。頭が良いのが体から染み出ているような人たちばかりである。

ドメドメ日本人とはいえ、自分自身も外資系コンサルティングファームで外国人メンバーと毎日英語で仕事をしていたし、ヨーロッパでも一年半働いた。英語環境で働くための最低限の素地はあると思っていた。更に、Kelloggに来てからは、Kelloggの象徴とも言える毎日のグループワークで相当に鍛えられてきた。従って、実は、なんとかなるんじゃないかと内心思っていた。そして、その甘い自信は最初の1週間で見事に粉々になった。

自分が携わっているプロジェクトは、シカゴ警察のパフォーマンス改善である。年間予算が約1500億円もかかっているこの巨大組織をいかに効率的に回して、かつ犯罪を減らせるかというお題で、トピック自体は非常に面白いのだが、自分がまずショックを受けたのは、プロジェクトメンバーもクライアント側も、外国人である自分に全く手加減がないことだった。日本でアメリカ人と働く場合、彼らは日本人に対して丁寧に話してくれたりする。ヨーロッパで働いていたときも、皆ネイティブではない分、コミュニケーションには非常に気を遣っていた。Kelloggでもアメリカ人はインターナショナルの学生にはそれなりの配慮がある。自分がわからない顔をしたり、アホな質問をしてもちゃんと丁寧に教えてくれる。教授もインターナショナルの学生を意識して授業をしてくれる。そんな環境に慣れてきた自分にとって、アメリカの普通の仕事環境は容赦がなかった。言葉の壁に加え、いわゆるアメリカ・シカゴの法制度、政治システム、警察機能等の一般常識がなかったことが災いして、最初の1週間は自分の周りで何が起こっているのかよく理解できなかった。特に苦労したのが、一般の警察官とのコミュニケーション。ビジネススクールの学生のように、物事をストラクチャーして話してくれる訳でもないし、外国人と接する機会もあまりないだろうから、容赦ないスピードと独特のなまりで話してくる。警察の専門用語、難しい犯罪用語も使われている。アメリカ人のチームメンバーですら、何度も聞き直している姿を目にした。更に悲しかったのは、自分の言うこともなかなか通じないということ。相手は日本人などと接する機会がないのだから、自分のなまりに慣れていないのは無理はない。自分の言った質問を、隣にいたチームの先輩のアメリカ人女性が言い直してくれたのが何ともむなしかった。Kelloggで一年間勉強し、アメリカでも何とかやっていけそうだと思っていた気持ちは完全に萎えてしまった。

相手の言っていることがわからない、こちらの言っていることが通じないことに加えてもう一つクリティカルだったのは、プレゼン能力の差である。自分のチームのアメリカ人女性のプレゼンを見ていると、これは言葉の力が違いすぎると思わざるを得なかった。どこでそんな表現習ったの?どこからそんな表現が湯水のごとく沸いてくるの?という感じである。明らかに複数の言葉の候補の中から最もいい表現を瞬時に選んで話している。一方の自分は、複数どころか一つを思いつくのが精一杯でそれを流暢に聞こえるようにつなげているだけである。何とかなるだろうと思っていたドメドメアメリカローカルの英語環境の中で、最初の数週間はうちのめされ続け、バリューがなかなか出せないことに苦しみ続けた。

とはいえ、諦めることだけはしたくなかったので、最初のフェーズがひと段落した段階で、どうやったらこの環境で、もっと自分の価値が出せるかを真剣に見つめ直すことにした。結局、考えなくてはいけないことは、言葉の部分をどう改善するかと言葉以外の部分で何を補えるかである。今思えば、これはKelloggに入りたての頃、なかなかグループワークで貢献できなかった自分が考えたことに似ていた。今更ながら、Kelloggで学んだチームワークスキルの重要性を痛感した訳である。言葉の部分の改善については、実は聞く部分についてはだいぶ慣れていた。小さい子供ほどの学習能力はないのだろうが、訳わからない中でシャワーのように英語を浴びていたら、やはり不思議と分かってくるようになるのである。話す部分については、相手が自分のなまりに慣れていないことを踏まえて、とにかくゆっくり話すようにした。我々は早く話さないとかっこよく聞こえない、ネイティブっぽくないと思いがちだが、これは大きな間違いで、そもそも我々はネイティブなんかになれるはずはないのだから、理解してもらうことを最優先にするべきである。親しいネイティブスピーカーには、とにかくゆっくり話すようにと何度もアドバイスをもらった。そして、これでクライアントインタビュー等はかなり楽になった。結局、我々は日本人なのだから、日本人としての英語を話せばいいのである。発音が下手くそなのに、無理にアメリカ人に似せて速く話すことは逆効果だ。

言葉の壁を補うために他に何ができるかについては、改めて自分の本来の強みに立ち戻ることにした。自分が日本にいたときから得意だったことは何か、それで勝負するしか勝ち目はない、そう開き直ったのである。自分の強みは、問題の構造化、定量分析、クライアントとの関係構築だった。ただ、問題の構造化は言葉の部分も重要なので、なかなかバリューは出しづらい、一方で定量分析は数字が相手だからバリューが出しやすい。チームの定量分析の設計、データ収集及び実際の分析は全て自分で引き受けることにした。自分の数字への強さは、アメリカのドメドメプロジェクトでも十分に発揮された。チームメンバー及びクライアントから信頼されるには十分だった。一つのことがうまくいき始めると、それは他にもプラスの影響を及ぼすようになる。当然、分析で信頼を得れば、クライアントとも話をしやすくなる。その中で、自分が特に意識したのは、他のチームメンバーがいないときに、積極的にクライアントと話すことだった。アメリカ人の他のメンバーがいると、どうしても会話を持っていかれてしまう。従って、自分だけのときこそ、クライアントに自分の意見をシェアしたり、逆に彼らの問題意識を聞いたりした。これは非常に効果的だった。気が付けば、クライアントから進んで自分に情報を提供してくれたり、意見を求めてくれるほどの関係を築くことができていた。人との人の関係構築において言葉はツールに過ぎないことを改めて実感した。

今回のインターンシップを通じて一番感じているのは、自分が「ネイティブスピーカー」として英語環境で勝負するのは不可能だということ。言葉の部分だけで言えば、いくら練習したところで彼らに勝てるはずはないのである。むしろ重要なのは、その言葉の部分の弱みを最小限に抑えると共に、他の部分でいかに差別化を図れるかである。それは結局、自分の本来の強みに直結する。グローバルの非常に競争の激しい環境で力を発揮するには、最も自分が自信を持っている強みで勝負するしかない。MBAはそれを見つける場であり、それに更に磨きをかける場ではないかと改めて気付いた。グローバルリーダーを目指すための道筋に少しだけ光明が見えた気がした。

一方で、課題はまだ山積している。ネイティブの環境でバリューを出すことはできても、ネイティブメンバーのチームのマネージャーになれる自信はまだない。クライアントリーダーシップをどれだけとれるかも未知数だ。特に、シニアなメンバーへのプレゼンなどをしなくてはならない立場になるとすると、プレゼン能力に関して、ネイティブスピーカーとは厳然たる差がある。最近、自分がこの部分でトライしていることの一つに、ユーモアがある。我々日本人が言うからこそ面白いユーモアが意外とあったりするのだ。自分のプレゼンが面白いと、当然聴衆は多少わかりにくくても聞いてくれる。もちろん、これだけで全てが解決される訳ではないが、自分がどこで差別化を図れるか、何に長けているかを突き詰めていくと、アメリカでのチームマネジメントという部分にすら答えは出てくるような気がする。自分のポテンシャルを信じて今後も色々なことに挑戦していくつもりだ。

アメリカのインターンはオファーをもらうのも難しいし、パフォーマンスを出しづらいという意味ではリスクも高い。とはいえ、貴重な経験であることは間違いない。特に、将来グローバルな環境で活躍したいと思っている人は、ぜひ挑戦して欲しいと思う。

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