人は依頼のされ方によって、高潔な行動への意欲が変わります。
Kellogg Insight, MAR 8, 2022 掲載

“Previously published in Kellogg Insight. Reprinted with permission of the Kellogg School of Management.”

あなたが支持する非営利団体が、ボランティアを募集しているとします。あなたはどの程度、これに時間を割くでしょうか。

その依頼が紙媒体か電子メールかによって、それは異なるかもしれません。

ケロッグ経営大学院でマーケティングを担当する准教授、マフェリマ・トゥーレ=ティレリー の新しい研究によると、人はデジタルデバイスを使用しているときよりも、紙の上で選択したときの方がより高潔な行動をとる可能性が高いことがわかりました。トゥーレ=ティレリーと共著者である浙江大学のリリ・ワン は、これを「紙の上の高潔さ」効果と名づけました。米国と中国で実施されたこの研究では、慈善団体に寄付することから娯楽本よりも教育的な読み物を選ぶことまで、いくつかの種類の高潔な行動にこの効果が及んでいることが示されています。
「人は、デジタルデバイスよりも紙の上でより高潔になるのです」と、トゥーレ=ティレリーは説明します。「その理由は、人々は紙の上で行うことをよりリアルと感じ、その結果、自分自身についての考え方や、自己のポジティブなイメージの維持にとって、紙の上の行為をより重要とみなすからだとわかりました」

言い換えれば、私たちが紙の上で行うことは、私たちの本当の姿をより多く語っているように感じられるのです。

バーチャルであることが必ずしも高潔さに結びつかない理由

研究チームは、「紙の上の高潔さ」という仮説を検証するために、米国の大都市の繁華街を歩いている200人の成人に声をかけ、アンケートを実施しました。調査対象者の半数には紙とペンを、残りの半数にはiPadを渡し、それぞれアンケートに回答してもらいました。どちらの場合も、同じようなレイアウトとフォントが使用されました。

次に、研究の真の意図を隠すために、参加者にはコーヒーと紅茶、バスケットボールとフットボールなど、その他のいくつかの中立的な選択肢から好きなものを選んでもらいました。その後、No Kid Hungry(子どもを餓えさせない)という非営利団体による慈善事業への協力のお願いが示されました。参加者は、寄付の方法に関する詳細な情報を受け取るために電子メールアドレスを提供する選択肢を与えられました。研究者たちは、この「メールアドレスを提供するかどうか」という選択肢を、高潔な行動の指標としたのです。

紙の上とタブレットという2つのアンケート方法では、対応の比率に大きな差が見られました。ペンと紙で回答した参加者の20%がメールアドレスを提供したのに対し、タブレットで回答した参加者はわずか7%に留まりました。「これは、非常にはっきりした効果でした」と、トゥーレ=ティレリーは述べます。

研究者たちは、中国のある大規模な大学でもう一度同様の実験を行いました。今度は、ボランティアの機会について詳しく知らせるために、参加者たちに携帯電話の番号を提供してもらいました。このときもやはり、タブレットを使った参加者(21%)よりも、紙とペンで記入した参加者(34%)の方がより多く番号を提供しました。

この実験は、同じパターンが再び確認できたという点で有益であっただけではなく、「文化の違いを超えて再現されたという点で、私たちに役立つ発見をもたらしました」と、トゥーレ=ティレリーは指摘します。

よい本を選ぶということ

研究者たちは、慈善事業やボランティア活動だけでなく、他の種類の高潔な行動にも同じ効果が見られるかどうかを確かめたいと考えました。そこで、実験の予備テストとして、人気のある20冊の本をリストアップし、どれが最も教育的で高尚に見え、どれが軽い読み物に見えるかを調べました。

その後、リサーチアシスタントたちが中国の大規模な大学の学生300人に声をかけ、紙の上に記入するか、あるいは指を使ってタブレットに記入するかのいずれかにより、アンケートに答えてもらいました。研究者たちは、これまでの研究で見られた傾向が、一般にペンを持つことではなく、紙の上に書くことに起因していることを確認するために、デジタルペン付きのタブレットという選択肢も用意しました。

[人々は]紙の上で行うことをよりリアルと感じ、その結果、自分自身についての考え方や、自己のポジティブなイメージの維持にとって、紙の上の行為をより重要とみなすからです。
—マフェリマ・トゥーレ=ティレリー

これまでの研究と同様、参加者は一連の埋め草の質問に回答しました。その後、8冊の本が紹介された書店の広告を見せられました。その中には、高尚な本4冊と低俗な本4冊が含まれていました。参加者は広告から4冊の本を選ぶように求められ、選択した高尚な本の数が高潔さの尺度とされました。

この新たな調査でも、同じ効果が現れました。タブレット(平均2.81冊)やデジタルペン付きタブレット(平均2.77冊)で回答した参加者よりも、紙の上(平均3.05冊)で回答した参加者の方が、より多くの高尚な本を選んだのです。

「この効果は、向社会的行動だけでなく、他の種類の高潔な行動にも現れることを示すことができました。慈善活動に限定されない、より広範な現象ということになります」と、トゥーレ=ティレリーは述べます。

紙の何がそんなによいのか

なぜ人々は、紙の上の方が高潔な選択をしやすいのでしょうか。トゥーレ=ティレリーとその同僚たちは、私たちが紙の上で行うことは、デジタルデバイス上で行うことよりもリアルに感じられ、「よりリアルと感じるからこそ、いっそう重要」、つまり私たちの自己認識にとってより大切なのではないかと考えました。

この仮説を検証するために、研究者たちは中国の大学生249人に声をかけ、前回と同じように紙の上かタブレットのいずれかで同じ埋め草の質問に答えてもらいました。次に、参加者たちに、アンケートでの選択が自分にとってどれだけリアルに感じられるか、また、これらのアンケートでの選択が自分という人間をどれだけ反映していると思うかについて、評価を求めました。最後に、参加者たちはWeChatのアカウント名を提供することで、ボランティアの機会についてより詳しく知ることができるという選択肢を与えられました。

これまでの研究と同様、紙とペンによる参加者は、タブレットによる参加者よりも連絡先情報を提供する人が多くなりました。また、紙の上で選択した参加者は、タブレットを使った参加者と比べて、自分の選択がよりリアルで、自分の本当の性格を表していると感じていました。統計解析の結果、紙の上で質問に答えることにより回答がいっそうリアルに感じられ、その結果、自分の性格がいっそうよく反映され、高潔な行動をとる可能性が高まるという連鎖反応が明らかにされました。

紙を戦略的に活用する

それでは、慈善団体は寄付を募るのに紙を配るべきでしょうか。

早合点しないようにと、トゥーレ=ティレリーは警告します。「環境に負担をかけることになるのは明らかなので、それはためらわれます。大量の紙を捨てるようなやり方に戻りたくはありません」。 その代わりに彼女は、どんな種類であれ高潔さを推進しようとする組織は、紙をいつ戦略的に使用するかを考えるとともに、おそらくは、バーチャルなやりとりをよりインパクトの強い、いっそう個人的な交流と感じられるようにする方法についても考えるだろうと示唆しています。「その体験をよりリアルでより自己診断的に感じさせるものは何であれ、いっそう寛大な行動を促すはずです」


FEATURED FACULTY

Rima Touré-Tillery

Associate Professor of Marketing

ABOUT THE WRITER

Susie Allen is a freelance writer in Chicago.

ABOUT THE RESEARCH

Toure-Tillery, Rima, and Lili Wang. 2021. “The Good-on-Paper Effect: How the Decision Context Influences Virtuous Behavior.” Marketing Science.

原文はこちら

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