投資家が渇望する正確なESG情報を、金融アナリストが提供できるかだろうか

Kellogg Insight NOV 1, 2022掲載

“Previously published in Kellogg Insight. Reprinted with permission of the Kellogg School of Management.”


アナリストたちはこれまでESGに注力してはきませんでしたが、担当する企業についての深い知識を持っています。

誰もがESG投資の利点を認めているわけではありませんが(イーロン・マスクがその1人)、現在では多くの投資家が、投資判断において企業の環境、社会、ガバナンスの要素を考慮することのメリットを確信するようになりました。消費者や従業員から地域社会全体に至るさまざまなステークホルダーと責任を持って関わることで、企業は規制リスクや風評リスク、経営リスクを低減し、株主の長期的利益を実現することができるという考え方です。

しかし、このような投資家の間では、企業のESGパフォーマンスに関する良質な情報を得るにはどこに頼ればよいかということが依然として議論になっています。

ケロッグ経営大学院の助教授で会計学と情報管理を担当するアーロン・ユンは、「何が役立つかをいかにして明らかにするかが大きな問題だ」と言います。

ユンは新しい論文で、伝統的な金融アナリストが発行するレポートがESG情報の有用な情報源となるかどうかを調査しています。金融アナリストはESGの最先端にいるとみなされてはいませんが、担当する企業の株主価値に関連するあらゆる側面について深く知っていることが期待できると、彼は述べます。そのため、ESGに関連の問題にも精通している可能性があると考えるのは、理にかなったことです。

ユンと共同研究者たちは、金融アナリストが発表した銘柄推奨と目標株価が、その後の企業のESG実績と一致しているかどうかを調べました。研究者たちは特に、アナリストの銘柄に対する下方修正勧告が、ESG関連の何らかのネガティブな出来事(労働者の権利侵害や原油流出など)を予測するものかどうか、また、好意的な推奨がこれらの出来事が起こりにくいことを予測するものかどうかを理解したかったのです。ユンは、カンザス大学ビジネススクール助教授のミン・パク、オハイオ州立大学フィッシャー・カレッジ・オブ・ビジネス准教授のザチ・ザックとともに、好ましくないESG事象の追跡データを用いてこの点を調査しました。

その結果、アナリストの銘柄推奨は、ESGリスクに関してその後1年間の企業行動と実際に一致していることがわかりました。アナリストによる銘柄の下方修正(「買い」から「中立」、「中立」から「売り」など)は、その後1年間における企業のネガティブなESG事象の発生頻度の上昇を予測し、一方、上方修正では、発生頻度の低下を予測していたのです。

また、注目すべきは、ESGに特化した評価機関のスコア変動を調整した場合でも、このパターンが維持されるとわかったことです。これは、アナリストたちがESGに特化したアナリストと少なくとも同程度にはESGリスクを予見していることを示唆しています。

「投資家たちはこの結果に興味を持つと思います」と、ユンは述べます。「どのESG評価機関を使うべきか、一般的にどのESGシグナルを使うべきか、投資家たちはこれまで至るところで混乱させられてきたと思います」

オペレーショナル・リスクの予測

研究者たちは、アナリストがESGのオペレーショナル・リスクをどの程度予測できるかに焦点を当てました。一般的にオペレーショナル・リスクとは、企業やそのリーダーが組織運営の日々の業務において負うリスクの種類を指します。オペレーショナル・リスクには、職場の安全衛生の監視、有害廃棄物や水の管理などESGに関連するものもあれば、サプライチェーンの途絶リスクなどそれ以外のものもあります。

この研究の目標は2つありました。第1に、研究者たちは、アナリストのレポートがESGを意識する投資家にとって有用な情報源となるかどうかを理解したいと考えました。第2に、歴史的に困難とされてきたオペレーショナル・リスクに関するアナリストの実績を評価したいと考えました。

「私たちの結果は、アナリストたちは担当する企業を根底から熟知しているため、企業のESG開示を解釈する上で最も役立つインサイトを持っている可能性が高いことを示唆しています」

―アーロン・ユン

「人々はアナリストたちがオペレーショナル・リスクについて何らかのインサイトを持っていると考えたいし、アナリストもそう主張してきましたが、いずれにせよ、これまでその証拠はありませんでした」と、ユンは述べます。「私たちは、アナリストがESGやオペレーショナル・リスクに関するインサイトを持っているかどうかを検証する、ユニークな方法を発見しました。

研究者たちが分析に使用したのは、スイスに拠点を置き、企業のESG関連の事象を追跡しているESGデータ会社であるRepRiskのデータセットです。RepRiskは機械学習を利用して、印刷媒体のメディア、オンラインメディア、ソーシャルメディア、政府機関など、10万もの多言語の情報源を毎日調査しています。ユンはRepRiskの学術顧問委員会のメンバーを務めています。

予測力を解き放つ

研究者たちの調査によると、アナリストの推奨は、実際に将来の有害なESGインシデントと相関性があることがわかりました。

具体的には、アナリストが企業評価を1段階下げるごとに、その企業はその後の12カ月間に平均的な企業よりも1.79%多くESG関連のネガティブな事象を経験していました。

その後の分析で、アナリストたちは企業が将来どれだけの利益を上げると予想されるかの評価において「予測されるリスク」を意図的または直感的に更新し、ESGリスクを追加で反映させていることがわかりました。

また、アナリストたちは、企業のESG開示報告書と、財務的に重要なESG課題に注目するサステナビリティ会計基準審議会(SASB)の業界別報告書の両方を考慮しているようだという証拠も得られました。

研究者たちはまた、将来のESGリスクの予測に最も長けているのはどのアナリストであるかについても調査しました。直感に反して、それは経験豊富なアナリストでもなければ、機関投資家 (金融雑誌も発行する調査機関で、そのアナリスト・アワードは広く認知されている)から「オールスター」と評価されたアナリストでもありませんでした。実際、研究者たちの結果によると、オールスターズのステータスを持たないアナリストは、ESG事象をより的確に予測する推奨を行っており、経験の浅いアナリストにも同様のことが言えると研究者たちは述べます。

「ESG事象の予測には、異なるスキルセットを必要とする可能性があります」と、研究者たちは述べます。また、より経験豊富なアナリストやオールスターズのアナリストは、「自分の確立した役割に居心地のよさを感じていて、革新的なことをあまりする気にならないため、新しい分野に関連するリスクには大きな注意を払わない」という可能性もあります。

落差を埋める

ESG投資への関心が高まる中、誰のESG分析を頼りにするかという問題はますます重要になります。

「私たちの結果は、アナリストたちは担当する企業を根底から熟知しているため、企業のESG開示を解釈する上で最も役立つインサイトを持っている可能性が高いことを示唆しています」とユンは説明します。

金融アナリストは企業や業界に精通しているため、特定の企業の情報開示が有用かどうかを判断する独自の能力を持っていると、彼は付け加えます。

「この種のインサイトは、アナリストが自分のモデルに組み込んでいる可能性が高いものです」と、彼は述べます。「アナリストたちは、ESGの非財務的性質と企業レベルの業績との間の落差を埋めるのに役立つ、その企業に固有のインサイトや情報を持っています。私はそれが付加価値を生むと思います」


FEATURED FACULTY

Aaron Yoon

Assistant Professor of Accounting & Information Management

ABOUT THE WRITER

Katie Gilbert is a freelance writer in Philadelphia.

ABOUT THE RESEARCH

Pak, Min, Aaron Yoon, and Tzachi Zach. 2022. “Sell-Side Analysts’ Assessment of Operational Risk: Evidence from Negative ESG Incidents.” Working paper. Read the original

原文はこちら

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