充実したキャリアを築く方法
自分の価値観と仕事を一致させるための実践的ヒント
Kellogg Insight, JAN 10, 2022 掲載
BASED ON THE RESEARCH AND INSIGHTS OF Carter Cast
“Previously published in Kellogg Insight. Reprinted with permission of the Kellogg School of Management.”
この数年は、多くの人にとって自意識を見つめなおす機会となりました。パンデミックによって新しい働き方が導入され、家族の健康と安全に対する新しい理解が生まれました。仕事や私生活に求める優先順位が変わることも、珍しくはありませんでした。このような状況下では、私たちは大きな不安と変化への渇望を抱えています。はっきりと表現できないまでも、何かを変えたいと思うのです。
ケロッグ経営大学院の起業家臨床学教授で、The Right—and Wrong—Stuff: How Brilliant Careers are Made and Unmade(正しい方法と間違った方法:輝かしいキャリア構築における成功と失敗)の著者であるカーター・キャストは、私たちが表明する価値観と実際の行動との間にあるかい離を「誠実さのギャップ」と表現しています。
これらのギャップは、価値観のトレードオフがますます増えていき、人格的誠実さの感覚が損なわれ始めると、徐々に現れることが多いものです。
たとえば、MBAを取得して出張の多い過重労働の職に就いたある人物は、仲の良い友人と連絡を絶やさないようにしようと考え、特定の職務のスキルを身につけるために必要な期間だけその職に留まることを誓うかもしれません。彼らは、その職務の厳しさが人間関係や趣味に悪影響を及ぼす恐れがあることを自覚しています。しかし、それは期間限定であると考え、この過酷な状況を受け入れるのです。
ところが、これがやがて期間限定ではなくなっていきます。報酬は魅力的で、2年が3年になり、4年になり、5年になり、やがて私生活が自分の意志とはかけ離れたものになってしまうのです。
誠実さのギャップは、内省と一貫した再調整を行うことで避けることができると、キャストは述べます。彼は、あなたの価値観と行動をより緊密に一致させる、以下のような方法を紹介しています。
定期的な自己分析を行う
よりよいキャリアを選択するためには、自分の価値観(自分にとって大切なもので、決してトレードオフの対象にはしたくないもの)と動機(自分にエネルギーと充足感を与えてくれるもの)の両方を理解することが重要です。それには、自分自身を少し省みる必要があります。
「自分を動機づけるものは何か、自分の人生にとって最も重要なことは何かと、定期的に自分に問いかけてみてください。そうすれば、気づいたらもはや自分の価値観とはかけ離れた仕事に就いているという可能性は低くなるはずです」と、キャストは語ります。
毎週末働いているような仕事に長く留まりすぎた、もはや自分が進歩しているとは思えなくなった、やりがいを感じられなくなった、という場合もあります。あるいは、愛する人たちともっと一緒に過ごしたいだけかもしれません。特にずっと成績優秀であった人にとっては、それを認識することは難しいかもしれません。
「私は何年もの間、あまり自分を省みることなく、ただひたすら仕事に打ち込んでいました。しかし、40代前半になって、自分の私生活が空っぽであることに気づきました。私は孤独で、キャリアを重ねるだけでは十分でないことに気づいたのです。再調整が必要であり、もっと豊かでバランスの取れた人生を送るための環境を整える必要があったのです」と、キャストは述べます。
やがてキャストは、何が自分を動機づけ、活力を与えてくれるかを敏感に感じ取ることの重要性に気づきました。そしてその知識が、これらの動機と一致する仕事を見つけるのに役立ったのです。
「私は自問しました。どうしたら自分の好きなことでお金をもらえるのか。この問いが私の自己探求の原動力となりました」と、キャストは言います。「自分の内なる声に耳を傾け、それに従うように自分の人生を変え始めました。つまり、自分は人に教えたり相談に乗ったりすることが好きだということに気づき、そこから、自分が本当になりたいのは経営最高幹部ではなく、教師なのだということに気づいたのです」。
キャストは、2つの部分からなる分析を行うことを提案しています。まず、予定表から過去1カ月の活動を抜き出し、自分の時間の使い方を活動ごとにリストアップします。そして、各活動が「エネルギーを生み出すもの」、「中立的なもの」、「エネルギーを減らすもの」のどれに該当するかを考え、ラベリングします。キャストは、赤はエネルギー消失型、黄色は中立型、緑はエネルギー創出型というように、色分けして分析しています。
月末にこの分析を行い、傾向を調べます。ある種の活動は、あなたにエネルギーを与えますか。もしそうなら、どうすればその活動をより多く行うような仕事環境を作ることができるでしょうか。ある種の活動は、あなたのやる気を失わせますか。そのような活動を、自分の予定から取り除くことはできるでしょうか。
「私は38歳で、行き詰まりを感じていました。ある晩、コロラド州のコンフォート・イン・スイートに宿泊した際、まさにこの方法を実践しました」と、キャストは述べます。「私は記憶を呼び覚ますために自分の履歴書を取り出し、さまざまな職務で行ったすべての活動のリストアップを開始しました。その結果、約50項目の業務活動をリストアップしました」
キャストが自分の分析結果を評価したところ、自分を動機づけ刺激となった仕事の多くが、現在の仕事の一部ではないことがわかりました。これを機に、彼は数カ月のうちにその仕事を辞めました。
「私は、キャリアアップだけが重要ではないことに気づいたのです」とキャストは述べます。自分自身を本当の意味で表現できる『よい仕事』を見つけること、自分にとって、そして自分と関わる人たちにとって意味のある、活力を与えてくれる仕事を見つけることが重要だったのです」
限度を設定する
時間とエネルギーの分析結果をもとに、自分の限界を明確にしながら、活力を与えてくれる活動に近づくよう予定表全体の再構成を始めることができます。
たとえば、家族に悪影響が出るような長時間労働をしている場合、その仕事が多少は許容できるものとなるように限度を設定しましょう。週に何回は家族と夕食をともにするとか、深夜の電話に応じる回数に上限を設けるなどです。
「誠実さのギャップの多くは、これは譲れないというものを設定しなかったり、無視したりするときに生じます」と、キャストは語ります。「どこで線引きするかはあなた次第です。あなたにとって譲れないものは何ですか。それは、新しい仕事に就く前に考えるべきことです」
「どこで線引きするかはあなた次第です。あなたにとって譲れないものは何ですか。それは、新しい仕事に就く前に考えるべきことです」
—カーター・キャスト
時間をどう使うかに関して、あなたが下すすべての決断はトレードオフです。自社のための解決策があるという営業担当者と会うべきか、それとも娘のサッカーの試合を見るべきか。市場に出て顧客と話しをするべきか、それともオフィスに籠もって誰にも邪魔されずに戦略に集中するべきか。夜間のフライトでよく眠れなくとも客先に早く到着するべきか、それとも運動してぐっすり眠るべきか。
「その決断を、上司を始めとする他の誰かに譲り渡さないようにしましょう」と、キャストは述べます。「自分の予定表に入れられるからと言って、入れるべきとは限らないのです」
未来への舵取りに役立つ小テストを作成する
自分がやりたい仕事と今やっている仕事との不一致を解決するのが難しい理由の1つは、希望する新しいポジションでは新たなスキルが必要になることが多く、それを身につけるには時間がかかるからです。
「スイッチを入れたら突然、違うことをする準備が整うわけではありません」と、キャストは述べます。「新しい機会のために種を蒔き、必要なスキルを開発する必要があります」
このギャップを埋めるために、キャストは2つの実践的活動を推奨します。
1つ目は、スキルギャップ分析を行うことです。自分の夢の職業に必要な主要スキルをリストアップした上で、各スキル領域における自己採点を行い、自分が最も得意な領域と、さらなるトレーニングや能力開発が必要と思われる領域を見つけます。
「90年代、私はボロボロになったキャリアノートを使っていました」と、キャストは語ります。「そこには、最高マーケティング責任者になるという目標を達成するために、身につけるべき各スキルについて書かれたセクションがありました」。
キャストは自分が勤めていたフリトレー[A1] 社のCMOを始めとするマーケティング部門の上級幹部たちに話を聞いてこのリストを作成し、6つの主要スキルとコンピテンシーとしてまとめ上げました。そして、さまざまなスキルギャップを埋めるための行動計画を作成しました。
たとえば、「トレードマーケティングおよびアカウントセールス」については、キャストは自分自身を「F」評価としました。彼の行動計画には、数人の優秀なセールスマネジャーに付いてシャドーイングを行い、彼らの仕事の重要な要素を学ぶことが含まれていました。そして、機会があれば現場に出て、フリトレー社の西区オフィスでトレードマーケティングを担当しました。このときの学習と経験は、彼がスキルギャップを埋めるのに役立ちました。
「一朝一夕にできることではありませんが、この方法はうまくいきました」とキャストは述べます。「私は8年でマーケティングの階段を上り詰め、CMOにまでなったのです。
キャストが勧める2つ目の活動は、彼が「小さな賭け」と呼ぶものを行うことです。「リーンスタートアップ方式の起業では、仮説を立て、プロトタイプを開発し、それをテストします。学習し、正しいものができるまで何度も繰り返すのです」と、彼は述べます。
キャストは、キャリア開発にも同様のアプローチを推奨します。彼の場合、将来のキャリアについていくつかの仮説を立て、テストしました。
「5年後に自分は何をしていたいのかを自問し、3つか4つの答えを思いつきました。そして、それぞれのキャリアパスが自分の心に響くかどうかを確かめようと、自分の適合性を見るためのちょっとしたテストを設計しました」と、キャストは語ります。
たとえば、将来は教授になりたいと考えているのなら、ゲスト講師として授業に参加することも「小さな賭け」のひとつです。それがうまくいったら、ベテランの教授と一緒に授業をしてみる。そうすることで、この仕事の厳しさをいっそう実感できるかもしれません。それでもまだ、教えることに熱意を感じるでしょうか。これに肯定的に答えられるならば、学部長と面談して、もっと永続的な職務に就くことが可能かどうかを確認することができます。
「5年後に何をすることになるかがわかっており、それを実行すればよいだけという人はほとんどいません。通常は、学習して調整するものです。私は、自分がベンチャーキャピタリストと教師の二足のわらじを履くことになるとは思っていませんでした。またいつか、CEOの役割を一時期引き受けることになるだろうと考えていた時期もありました。しかし、心をオープンにして好奇心を持ち続け、いつでもできる限り考えを調整し試し続けた結果、まったく違う道を歩むことになったのです」
[A1]http://www.fritolay.co.jp/aboutus/company/
FEATURED FACULTY
Michael S. and Mary Sue Shannon Clinical Endowed Professor; Professor of Innovation and Entrepreneurship
ABOUT THE WRITER
Susan Margolin is a writer based in Boston.
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