この半世紀でマーケティングはどのように変わったか 
Kellogg Insight, JAN 21, 2022 掲載

BASED ON THE RESEARCH AND INSIGHTS OF
Philip Kotler, Alexander Chernev

“Previously published in Kellogg Insight. Reprinted with permission of the Kellogg School of Management.”

フィリップ・コトラーの革新的な著作が出版されたのは55年前です。16版を重ねた今、コトラーと共著者のアレクサンダー・チェルネフが、ビッグデータ、ソーシャルメディア、パーパス・ドリブン・ブランディングに牽引されるこの分野の進展について論じます。

現代マーケティングの父と呼ばれるフィリップ・コトラーが、後に世界で最も影響力のあるマーケティングの教科書となった革新的著作、『マーケティング・マネジメント』の初版を上梓してから55年、多くの変化がありました。
今回、『マーケティング・マネジメント』第16版の出版にあたり、著者でありケロッグ経営大学院でマーケティングを担当するフィリップ・コトラー教授と、第16版の共著者であるアレクサンダー・チェルネフ教授に、マーケティングの変遷と今後の方向性についてお話をうかがいました。
このインタビューは、簡潔にわかりやすくするために編集されています。

インサイト:マーケティング分野における新しい考え方は、『マーケティング・マネジメント』の最新版にどのように反映されているのでしょうか。時を経て何が変わり、何が変わらずに一貫しているのでしょうか。

コトラー:「マーケティング」という言葉は、1900年代に市場で行われている活動や制度を表す言葉として登場し、初期のマーケティングの教科書は、こうした活動や制度について説明するものがほとんどでした。1967年に出版された『マーケティング・マネジメント』は、マーケティングに分析的なアプローチを用い、学術的な研究成果を盛り込んだ最初の教科書でした。この本は、経済学、行動科学、組織学、数学の知識を統合し、マーケティングの問題に取り組む際に幅と深さと厳密さをもたらすものでした。
本書の初版で提示された重要な基本的考え方の1つは、企業活動は顧客とそのニーズによって駆動されなければならないということでした。顧客中心主義というこの中核原則は、本書のすべての版にわたり中心的な考え方であり続けています。ビッグデータ、ソーシャルメディア、洗練されたeコマースの台頭があっても、あらゆる企業の主要目的(パーパス)が顧客のための価値創造であることに変わりはありません。

チェルネフ:新版のアプローチの核となるのは価値創造です。マーケティングとは、価値を理解し、デザインし、伝え、提供することです。これがマーケティング戦略の基盤であり、時を経ても変化していません。変わったのは、企業が価値を創造するために使うツールです。データ分析、自動化、人工知能は、価値を管理する上で非常に有効なツールですが、あくまでツールに過ぎません。適切な戦略に基づいて使用しなければ、企業の中核的使命から逸脱してしまう可能性があります。
しかし、すべての変化が戦術的というわけではありません。多くの企業の経営理念に影響を及ぼす重要な変化の1つに、企業の究極の目的(パーパス)を再定義することがあります。その結果、社会的価値の創造を自社のミッションステートメントに含める企業が増えています。これは、それらの企業が市場でどのように行動し、自社の事業プロセスをどのように構成するかに長期的影響を及ぼしうる、重要な動向と言えます。

インサイト:その点をご指摘いただき、うれしく思います。今や多くの企業のマーケティング戦略において、ブランドは単に収益を上げるだけでなく、目的(パーパス)を持たなければならないということが中心にあります。この考え方は、長年にわたりどのように進化してきたのでしょうか。

コトラー:かつては、ブランドとは単に製品が何であるか、何ができるか、どのような価格であるかを伝えるものでした。しかし、今日のブランドとは、顧客の特定のニーズに対応する具体的便益を提供するという企業の約束なのです。さらに、多くのブランドの約束は、機能性に留まらず、顧客のアイデンティティのある側面を反映したものとなっています。
ユニリーバがダヴの石鹸で行ったことを例に挙げましょう。この商品は今や、単に肌をきれいにするためのものでなく、すべての女性が美しいということを再認識させるものとなっています。理想的には、ブランドは購入者をより高い視点で捉え、購入者が何らかの形で前進するのに役立つ約束を提供しようとしているのです。

チェルネフ:ますます多くの製品がコモディティ化する中で、顧客は機能性だけでなく、意味のあるものを求めています。もはや、製品だけの問題ではありません。その製品の背後にある企業がどのような企業なのか、その企業は何を象徴しているのか、ということも重要です。それを理解した企業は、市場で成功するためには、企業文化を改革し、顧客の持つ価値観に合わせて再調整しなければならない可能性に気づきます。
また、目的(パーパス)を持つことは、企業が従業員を惹きつけ、維持することにもつながります。何かを象徴すれば、適切な人材を獲得し、維持できる可能性が高くなり、最終的に収益性を高めることができるのです。このことは、企業のパートナーにも当てはまります。たとえば、ホールフーズのような企業は、環境に優しく、社会的に責任あるビジネス慣行を採用しているサプライヤーを優先的に採用しています。

インサイト:ソーシャルメディアは、マーケティングの理論や実践にどのような影響を及ぼしましたか。また、それがマーケターに新しい機会を提供しているという点で、どのようにお考えですか。

チェルネフ:最も基本的なレベルにおいては、理論はいまだ変わっていません。最終的目標は価値を創造することです。しかし、戦術のレベルでは、多くの変化が起きています。その1つが情報の拡散です。
かつては、商品情報を顧客に伝える主なツールは広告でした。しかし、今や顧客は、その企業だけでなく他の顧客も含めて、さまざまな情報源から詳細な製品情報を得ることができるようになりました。そして、それは企業にとっても同じことです。ソーシャルメディアの普及とデータ分析の進歩により、企業は顧客の行動だけでなく、顧客が自社ブランドをどのように感じているかをリアルタイムに知ることができるようになりました。つまり、基本的目標は価値創造であることに変わりはありませんが、企業がそれを達成しうる方法は変化しているのです。

コトラー:今日の消費者は、これまでとは違うということを認識することが重要です。彼らは世界の他の多様な領域の多くの人々とつながり、セールスマンや広告を必要とせず、クリック1つで情報を得ることができます。車を買おうとする人は、最後には販売店でセールスマンに会うことになるでしょうが、ほとんどの人は、自分で選択肢を知るために多くの情報を収集しているはずです。このような知的で豊富な情報を持つ消費者の存在を認識し、企業は従来のマーケティングツールを大幅に変更しなければなりません。たとえば、大規模な営業部隊を持つことは、企業にとって経費の無駄使いではないでしょうか。果たして、消費者が利用できる知識がそれほど多くなかった頃と同じような効果があるのでしょうか。

「今日のブランドとは、顧客の特定のニーズに対応する具体的便益を提供するという企業の約束なのです」—フィリップ・コトラー

インサイト:伝統的な小売業の未来を形作るのは、どのような変化だとお考えですか。

コトラー:店頭での買い物がどうなっていくのか、気になるところです。店に行かなくても欲しいものは何でも手に入るということが考えられるので、店は特別な存在でなければなりません。よい体験をデザインする必要があります。そのためには、「何店舗必要になるか、どのような店舗が必要か」を問わなければなりません。

チェルネフ:人々が実店舗に買い物に行く理由はさまざまです。ある人は、純粋に実用的な理由で買い物に行きます。商品の見た目や質感を実際に確認でき、最終的にその場で購入して、家に持ち帰ることができるという事実を高く評価します。また、もっと快楽的な理由から、ショッピング体験を重視して実店舗に行く人もいます。時間の節約のためではなく、時間を過ごすために実店舗に行くのです。また、友人や家族との交流の場として利用する人も少なくありません。
インターネットはショッピング体験をより効率的にすることができますが、少なくとも今のところ、社会的交流の場としての実店舗の伝統的役割に取って代わることはできません。ですから、ますます多くの実店舗が、顧客が他の人と交流し、食事をし、最終的には商品をいくつか購入するための体験型のスペースに変わっていくと考えられます。

インサイト:組織におけるマーケティングの役割はどのように変化しているとお考えですか。組織の中で、マーケティング機能がいっそう大きな影響力を持つ、あるいは異なる種類の影響力を持つようになる可能性はありますか。

コトラー:これまでマーケティングは、製品開発には関与していませんでした。製品が完成してから初めて呼ばれるのです。そして、できる限りたくさん売ることがマーケターの仕事でした。しかし、現在はマーケティング部門が製品開発に参加するようになりました。マーケターはデザインのアイデアや機能を提案することができます。実現できるかどうかを判断するのはエンジニアですが、顧客が製品を購入する際の基準をよく理解しているのはマーケティング担当者であり、価値を最もよく評価できるのはマーケティング担当者です。
最近は、最高マーケティング責任者(CMO)の職位を廃止して、最高成長責任者や最高顧客責任者を置く企業もあります。しかし、大半の企業では、マーケティングを担当するCMOを任命し、重役室で他の役員と同席させています。

チェルネフ:マーケティングの課題としては、一部の企業においてマーケティングをあまりにも狭く捉え、広告やコミュニケーションに限定していることが挙げられます。マーケティングははるかに広い分野ですから、これは問題を生じさせます。実際のマーケティングとは、市場を科学で解明し、いかに価値を創造するかということです。したがって、マーケティングは組織の中心的な機能であるべきなのです。一部の企業では、マーケティングに対するこのような誤解に対処するために、最高成長責任者や最高顧客責任者といった別の名称を考え出しました。しかし、これらは基本的に、マーケティングが行うことを別の角度からとらえているにすぎません。
もうひとつの大きな変化は、透明性と、より重要な説明責任の必要性です。技術的発展により企業活動の効果が追跡可能になると、経営者は自社のマーケティング投資に対するリターンを実証できるようになると予想されます。これには利点と欠点があります。利点は、マーケティング資源を最も効果の高い分野にうまく配分できるようになるということです。しかし、その反面、企業のマーケティングの取り組みが短期的な効果をもたらす活動に集中し、ブランド構築のような長期的な利益をもたらす活動を毀損する可能性があります。

FEATURED FACULTY

Philip Kotler

SC Johnson Chair in Global Marketing; Professor Emeritus of Marketing

Alexander Chernev

Professor of Marketing

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